<曇のち晴>

今日、奥さんと数日ぶりに会った。
「奥さん、お久しぶりですね。どこかに行かれていたのですか?」
「ちょっと、旅にね」
「旅ですか。いいですね。どちらまで?」
すると、奥さんは遠い目をして、
「……どちらまでって、そうねぇ、内面の精神世界にね」
「セイシンセカイ……ですか」
ボクは言葉に詰まって、繰り返した。
「あんたはさぁ。旅に出たりするの?」
はぁ、一応渡り鳥ですからね、とは思ったものの、口を挟む間もなく、
「あんたはいいわよねぇ、気楽でねぇ」
と奥さんは言うのだった。
気楽じゃありませんよ、家賃払えないばっかりに肩身の狭い思いをしているんですよ、とは、おっかなくて言えなかった。

最近の奥さんは、どこかヘンだ。
それもおっかなくて、もちろん言えないのだが。

<晴れ>

今日は、ダンナさんが小さな包みを7つくれた。
“交通安全守”と書いてあって紐がついている。中はとても硬い。板餅のようだ。

「これは食べ物が入っているのですか?
+(0゚・∀・) + ワクテカ
「ごめんよ、食べ物じゃないんだ」
ダンナさんは、とてもすまなそうな顔をするので、こっちも慌ててしまい
「いえいえ、そんな! 食べ物だと腐ってしまったりしますからね。食べ物じゃなくてよかったですよ、ほんとに。ええ、ほんとにそうですよ」
などと、わけもなく謝ってしまった。
そういうボクを妻が薄笑いしながら見ている。
言いたいことはわかっている。
自分でも、小心者だと思うけれど、でもどうしようもない。そういうことって、だれでもあると思う。たぶん、これを読んでいるみんなにも。

ブラッシャーが、一人で3つせしめようとしているのを見たダンナさんは、苦笑いしながら、
「一人ひとつずつだよ」
と言った。
それから、「中を開けるとバチが当たるからね」と、ブラッシャーに向かって付け足した。

妻は、ものをくれる人には、態度が軟化する(奥さんを除く)。
「よく見ると、ちょっといい男じゃないの」と目を細めた。
そう聞いて、ホッとすることはあっても、もはやジェラシーで苦しむことはないのだ。

さて、食べ物ではないとすると、この小さな包みは、何なのだろう(ダンナさんには聞きにくく、なんとなくそのままになってしまったのだ)。
バチが当たると聞くと、あけて確かめるわけにはいかない。
さては、これは、われら渡り鳥を使ったスパイ作戦なのかもしれない。
気がつかないうちに、機密のマイクロフィルムの運び屋となってしまったのか。
ひょっとして、ダンナさんは、オタクに見せかけたFBI捜査官だったのか。
だとしたら、ダンナさんがあんなにすまなそうにしたのも、納得なのだ。どうしよう……。
奥さんは、精神世界の人で、ダンナさんは、地下世界の人。最初は普通の人だと思っていたのに。人は見かけによらないのだな。





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