<曇のち晴>

奥さんが戸袋のところにやってきて、改まった口調で言った。

「ねえ、あんたはさぁ、自己実現についてどう思う?」
「じっ……?」
「あぁ〜……、じゃあさ、人としての生き方については、どう考えているのよ?」
「いやあ、そうおっしゃられても、ボク 人じゃないし」
「……そうだったねぇ。じゃあさ、夢については、どう思っている?」
「ユメ? ユメですか。昨日、ユメの中に、藤原紀香さんが出てきましたが、そういうことではないのですか?」
「違う。ぜんぜん、違う。ぜんぜん ぜんぜん、違う」

奥さんの目が怒っているようだったので、ボクは恐縮して すみません と謝った。

すると、奥さんは、少し優しい声になって
「あんたもさぁ、頑張っても頑張っても、うまくいかないことってあるんでしょ?」
というのである。
それって、ナカナカに失礼な物言いであるなとは思ったが、
「もちろんですとも」
と答えておいた。だって、実際にそうだし。
「やっぱりねぇ。鳥だって、そうだよねぇ。それでも、やらなきゃいけないんだよねぇ、人生ってやつはさぁ」
奥さんは、深く頷きながら、演歌のようなことを言って、ぷいとまたどこかへ行ってしまった。

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