<曇ときどき雨>

ダンナさんは、子どものころ、カモを飼っていたことがあるらしく、今でも鳥が好きなのだそうだ。ときどき戸袋のところにきて、子どもたちに向かってかわいいなぁかわいいなぁと言っている。ただ、かわいいかわいいと言うだけで、奥さんのように、あれこれ面倒なことをしてくれないからいい。
でも、今朝は、小さなコップに水を入れて、戸袋のところに置いていってくれた。ダンナさんなりの気遣いのようであった。
 
 ダンナさん、ありがとう......。

しかし、妻は、すっかりこの一家や、この状況がイヤになっているらしく、ダンナさんが置いていったコップを、2階の高さからけり落としたのである!
ガチャーンッ! コップが地面に音を立てて落ち、中の水がこぼれた。

「ああっ、なんてことをするんだ! せっかくダンナさんが持ってきてくれたというのに」
妻はギロリと睨み、「フン!」と鼻を鳴らすと、バタバタと羽音をさせて、どこかへ行ってしまった。前はもっとかわいいやつだったのに、どうしたというのだろう。
夕方、ダンナさんが庭に落ちているコップを拾い、悲しげに戸袋を見上げている様子を目にして、ボクは本当に申し訳なくなってしまった。

 ダンナさん、ごめんなさい......。

奥さんといい、妻といい、女性は本当にやっかいだ。
独身主義も悪くないかもしれない、と今になって思う。ボクは、静かな思索の時間が欲しい。

<晴>

最近、妻と折り合いが悪いので、今日はじっくりと話し合うことにした。

「そうカリカリしないで、人の好意は受けておくものだ」
「あたしは、自分のペースで暮らしたいのよっ」
「まぁまぁ、いろいろな人たちに囲まれて育ったほうが、いい子になるそうだぞ。二世帯住宅に住んでいるつもりになったらどうだ? 核家族化が進んだ今の日本ではなぁ、大家族のよさが見直さ」
「フン! なにが二世帯住宅よ!寝言は寝て言ってちょうだい」
妻はブリブリと怒り出した。
二世帯住宅がいけなかったようだ。

それを見たプッチョが、
「お父ちゃんとお母ちゃん、ケンカしているの?」と泣き、そしてブラッシャーが
「お父ちゃんとお母ちゃん、リコンするの?」と聞いた。
リコンなんて言葉を、一体どこで覚えてきたんだろう。女の子はマセているなぁ、と驚いていると、妻が、「そうかもしれないわね」と答えているので、もっと驚いた。

早く早く子どもたちを巣立ちさせて、とにかくここを離れたほうがいいようだ。やはり、方角が悪かったのだ。



<晴>

少し早いかと思ったが、事態が事態なので、今日から飛ぶ練習を始めた。
案の定、プッチョは、絶望的に運動神経が悪い。

「お父ちゃん、ぼくは、どうせダメなんだよ」
「そんなことはないさ。最初は、みんな飛べないんだよ。練習が大事なんだ。ほら、お父ちゃんの背中に乗ってごらん。このまま飛んでみせるから、イメージトレーニングをするのだ」
プッチョは、自分の若いころと重なるので、つい甘くなってしまう。

ところが、
「お父ちゃん、プッショだけ、ずるーい」
必ずいるのだ、やっかむやつが。そして、大抵、そういうやつが一番強い。

「わかった。わかったよ。二人とも乗せてやるから、練習だ。早く飛べるようになって、ここから出ていくのだ」
ブラッシャーが嬉々として背中に飛び乗った。ぁうっ、腰にくる。

「お父ちゃん、二人だけ、ずるーい」
「お父ちゃんは、いっつも贔屓するんだ」
「僕のことはかわいくないんだ」
「ああ、もうわかった。みんな乗ったらいい」
「わーいっ」
「お父ちゃん、しっかりぃ〜! ぐらぐらするよ」
「でも、ぐらぐらする分、遊園地みたいで楽しいね。くすくすっ」
「みんなっ、分かっているかっ! イメージトレーニングだ。目をつぶって、風を切る姿を思い浮かべるんだぞ」
「わぁっ、もっとぐらぐらしないかなぁっ、くすくす」
「きゃあきゃあ」
……。
目をつぶって、イメージトレーニングをしている子は、プッチョだけだった。

父親業ってやつは、全くもって、割に合わない。

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