<雨>

雨の日のエサ探しは大変だ。なんとかミミズ数匹を見つけて巣に戻ると、子どもたちが、我先に「くれくれ」とうるさく騒ぐ。押しが強い子どもはやはり目立つのか、こちらも無意識のうちに与えてしまっているようだ。ハッと気がつくと、プッチョ(たぶん)が黙って、じっとこちらを見つめていたりする。

「おまえは、何か食べたのかい?」と聞くと、無言で首を振る。心なしか、涙で目が潤んでいる。父親としては、仕方なく、すぐまた雨の中にエサを探しに行く。

家の周囲をぺたぺた歩き回るが、なかなかエサは見つからない。すると、向こうから奥さんが傘をさしてやってきた。両手に、スーパーのビニール袋を下げている。

「お互い、子どもたちのエサでは苦労するねぇ」
と奥さんは笑顔で挨拶した。

「でも、奥さんはいいですよ。スーパーでお金を出せば買えるんですから、ラクですよね」とボクがちょっと皮肉ると、奥さんの目が急に光った。そして、
「月々500円の家賃も払わないで、えらそうに言うな」と低い声で言った。ボクは怖くなって、
「すみません、口が過ぎました」と謝っておいた。
奥さんは、元の顔に戻ると、「こっちは、買ってきたあとに料理をして、おまけに後片付けまでしなくちゃいけないんだぞ」と威張った。

今日は、「奥さんは奥さんで大変らしい」ということだけはわかった日だった。

<雨>

今日も雨が降っている。エサ探しに苦労していると、奥さんが戸袋のところにやってきて、「食べるかい?」と食パンのちぎったやつをくれた。

「奥さん、お気持ちはありがたいのですが、成長過程には、できればタンパク質がいいんです」
「タンパク質?」
「そうです、虫とか、そういうやつです」

しばらくすると、奥さんは、湯気の出ている黄色い棒のようなものを持ってきた。
「何ですか? これは?」
「甘い卵焼きだよ。ウチの子どもは大好きなんだ。栄養があるんだよ」
「ああ〜、ええっと、すみません。そういうものは、ちょっと倫理的に問題があってですね」
奥さんは、イヤな顔をして、
「いろいろうるさいねぇ、この鳥は」と言うと、目の前で、卵焼きをむしゃむしゃと食べてしまった。

<雨>

今日も雨だ。今年は雨が多い。

妻はエサを探しに松林に行った。子どもたちは、どんどん大きくなり、狭い戸袋の中で、いつも、だれかの上にだれかが乗っているという有様で、うるさく騒いでいる。さっさと巣立ちしてもらいたくなってきた。それには、まず食べさせることだ。

今日もまた奥さんが来た。
そして「たんとお食べ」と、白い発泡スチロールの小皿を出した。

「なんですか? これは?」
「納豆だよ」
「なっとう?」
「タンパク質の塊みたいなもので、腸がきれいになる」
奥さんはとくとくと説明した。

用心しながら、「鳥の肉ではないんですね?」と聞くと、「畑の肉である」と奥さんは答えた。そして、「ああ、忙しいんだった。今日しめきりの原稿が」とどこかへ行ってしまった。
「はたけ......」
ボクはよくわからなかったが、お腹を減らした子どもが欲しがって騒ぎ、ピッタがまずその粒粒を口にした。そして、ブラッシャーが続いた。

「お父ちゃん、なんか、クチバシがネバネバになっちゃった」
「お父ちゃん、なんか、臭いわ、イヤよ」
2人が泣き出し、狭い戸袋の中が、さらに上へ下へのしっちゃかめっちゃかな騒動になった。妻がいなくてよかった、と心から思った。

しばらくしてから戻ってきた奥さんは、ほとんど手のついていない納豆を見て、
「あらあら、タレをかけなきゃ、おいしくないでしょうが」
と呆れ、
「こう見えても、私は結構子ども好きで、何かしてあげたくなっちゃうんだよね」とニコニコしながら、タレの小袋をぴゅぅっとあけると納豆にかけた。
「ほら、ピッタ、美味しいから食べてごらん」
と言ったが、ピッタは目を潤ませて、ボクの後ろに隠れてしまった。

奥さんはきっと善意でやってくれているのだろう。
手の込んだ、嫌がらせであるとは思いたくない。
だから、どうか何もしてくれないほうがいいのですが、
とは言えないのである。立場も弱いことであるし......。

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