インディちゃんは自分がついたウソのせいで、毎日を落ち着かない気持ちで過ごしていました。

――ご主人様だけ外国に旅行していることが知られたら、ウソつきって言われちゃう。みんな、僕のことをステキって、思わなくなっちゃうかも。

やがてゴールデンウィークとなり、ご主人様たちは、出かけることになりました。
「ワンワン! ご主人様。今年は、僕も外国に行きたいです。ドックホテルは嫌です」
インディちゃんはご主人様にお願いしました。
でも、ご主人様は、「それは無理だよ。インディ。検疫とか、大変なんだ」
と即答したので、これは交渉の余地なしだなと、インディちゃんは暗澹たる気持ちになりました。

ドックホテルでの別れ際、インディちゃんは小さな声で聞きました。
「……ハワイに行くのですか?」
「今回はセブ島よ。インディのために、いつもドックホテル予約するから、お金かかってしょうがないの。本当はハワイがいいんだけど、でも、せいぜい安いところしか行けないわ」
奥さんは言いましたが、インディちゃんには、ハワイとセブ島の区別がつきませんでした。だから、
「……ご面倒かけます」
とだけ、答えておきました。
ご主人は
「お土産買ってくるよ。イヌ用のTシャツとかどうだい?」と朗らかに笑いました。

ご主人様たちが行ってしまうと、インディちゃんは、急にぐったりとしてしまいました。
ドックホテルの店員さんは、インディちゃんを気遣って、散歩に連れていこうとしてくれましたが、インディちゃんは1丁目のイヌに会うのが恐ろしかったので、断りました。

――みんなにウソがばれたら、どうしよう。

そして、僕の家はエリートで素晴らしいお金持ちだけれど、でも、僕は、普通の家でもよかった…。クロちゃんたちみたいに…と、初めて思いました。でも、すぐその考えを打ち消します。
僕は、血統書付きのボクサー犬だ。普通の家なんて似合わない。
僕は、『選ばれし者』なんだから、特別な生き方しかできないんだよ。

ゴールデンウィーク期間中、インディちゃんはドックホテルで静かに過ごし、
1週間目の夜遅く、迎えに来たご主人様に連れられ、暗闇にまぎれてそそくさと家に帰りました。

ご主人様は、アルファベットがプリントされたイヌ用のTシャツを、お土産にくれました。
でも、インディちゃんには、なんて書いてあるかわかりません。
「なんて書いてあるのですか?」
インディちゃんは奥さんに聞きました。奥さんは、眉根を寄せてしばらく眺めていましたが
「私にも、わかんないわね」
と言いました。


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