三週間ほど前、南東角の一戸建てに引っ越ししてきた一家は、ボクサー犬を飼っていました。1丁目の犬たちがボクサー犬を見るのは、初めてです。
「なんか、強そう」とシロちゃんは思い、
「なんか、いけすかない」とゴロウちゃんは思いました。
「なんか、男前かも」とマロンちゃんは思い、
「頭の中も筋肉でできているみたいね」とコーデリアちゃんは思いました。

ボクサー犬は、インディちゃんという名前でした。
「インディって、インディペンデンスからとった名前なんだ。インディペンデンスって、どういう意味か知っている?」
インディちゃんは、みんなに訊ねます。
場所は居酒屋むらさき。今日は、インディちゃんの歓迎会なのでした。

でも、クロちゃんは、一心に骨をしゃぶっていて、インディちゃんの言葉に気がつきません。他のみんなは黙っています。ゴールデンレトリーバーのバフちゃんが気を使い、
「えーっと、どういう意味?」と聞きました。すると、インディちゃんは、得々と
「インディペンデンスって、独立って意味なんだよ」と説明しました。
――飼い犬のくせに、何が『独立』だよ。ケッ
ゴロウちゃんが、アタリメをしゃぶりながら、心の中で毒づきました。

「ねえ、君の名前の由来は?」
インディちゃんがクロちゃんに聞きます。
クロちゃんは、あまり興味がなさそうに、「黒いからじゃないかな」と答えました。
「じゃあ、君の名前の由来は?」
インディちゃんは、今度はシロちゃんに聞きました。
シロちゃんは、「白いからだと思う」と、生真面目に答えました。

インディちゃんの自慢は、名前だけではありません。
「僕のご主人様は、毎年、お正月をハワイで過ごすんだよ。ハワイだけじゃないよ。長期休暇は、必ず外国に行くんだ」
すると、それを聞いたマロンちゃんが
「まぁ! じゃあ、インディちゃんもしょっちゅう外国に行くのね。セレブなのね。ステキ!」
と目を輝かせたので、インディちゃんは、留守の間、自分だけドックホテルに預けられていることは言い出せなくなってしまいました。
「ええっと、まあね。海外のことでわからないことがあったら、僕に聞いてよ」
インディちゃんは、引くに引けず、そんなウソをついてしまいました。


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