今年は、去年よりも一週間ほど遅れて、やっと桜が咲きました。
クロちゃんは、桜の季節が大好きです。桜が好きというよりは、桜の下で、みんなで賑やかにお酒を飲んだり、歌を歌ったりするのが好きなのでした。

八分咲きの日曜日、クロちゃんはご主人様に言いました。
「ご主人様! 土手の桜がきれいだそうですよ。お花見にいきませんか?」
「そうできたらいいんだけど、今日は会社の後輩の結婚式に出席しなくちゃいけないんだよ。悪いね、クロ」
クロちゃんは少しがっかり。
――結婚式なら連れていってもらうわけにもいかないし、しょうがないなぁ。
「仲よしの犬といっしょに、行ってきたらどうだい?」
奥さんは、7匹分のからあげと卵焼きを作り、紙皿と紙ナプキンを7枚用意してくれました。そして、よく冷えたビールを7缶、冷蔵庫から取り出すと、からあげや紙皿と一緒にリュックに入れて、クロちゃんにもたせてくれました。
「楽しんでおいでね」
「ありがとうございます! 行ってきます」
クロちゃんは、すっかり元気を取り戻し、勢いよく駆け出していきました。

クロちゃんは、まず、酒屋のゴロウちゃんの家に行きました。
「ゴロウちゃんっ! お花見行かない?」
「あ、クロちゃん。今日は、お花見でお客さんが多いから、家の手伝いしなくっちゃいけないんだ。悪いね」
ゴロウちゃんが言いました。
「そっかぁ。お家の手伝いがあるんじゃしょうがないね」

次に、クロちゃんは、ビーグル犬のラブちゃんの家に行きました。
「ラーブーちゃんっ! お花見行かない?」
「あ、クロちゃん。今日は、ご主人様によみうりランドのドッグランに連れていってもらうんだ」
「ドックランかぁ、いいなぁ」
「ごめんね」
ラブちゃんはすまなそうな顔をしています。
「あ、いいよいいよ。突然だったしね」
クロちゃんは慌てて言いました。

リュックを背負って歩いているとき、クロちゃんはコーデリアちゃんが道を急いでいるところに、すれ違いました。
「これからお花見行くんだけど、来ない?」
「悪いけど、私、バイトなの。売り場のリーダーだから、無責任なことできないのよ」
コーデリアちゃんは、もったいぶった声で言いました。
リーダーって何だろう? クロちゃんはよくわかりませんでしたが、とにかくコーデリアちゃんが来られないということだけはわかりました。

クロちゃんは、ミニチュアダックスフンドのクッキーちゃんの家の前にきました。クッキーちゃんの家は3階建てです。どの窓もぴったりと閉められています。車もありません。きっと、クッキーちゃんもご主人様たちと出かけたのでしょう。
クロちゃんは、マルチーズのマロンちゃんの家に向かいかけて、やめました。
きっと、マロンちゃんは、誘っても来ないような気がしたからです。

何だか、リュックがずっしりと重く感じられました。


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