宴もたけなわになった頃、ガラリと扉が開いて、シロちゃんがやってきました。
「あれー、遅かったね! 生でいい?」
早速クロちゃんが聞きます。
「えっと、うん……」
「生ひとつね! ここのつきだし、おいしいんだよっ」
クロちゃんがまた勧めます。
「シロちゃん、せっかくだから、クロちゃんの隣に座ったら?」
「そうだよ、クロとシロで、ぴったりだよ」
みんなが言いましたが、シロちゃんは、黙ってコーデリアちゃんの横に座りました。

――どうして、みんな、シロとクロっていうだけで、僕達をセットにするんだろう。
シロちゃんは不愉快でした。
だって、シロちゃんは毛並みの悪い雑種犬。一方のクロちゃんは、ラブラドール・レトリーバーです。ツヤツヤの黒い毛に、本皮の赤い首輪が鮮やかです。それに、クロちゃんのご主人様はまだ若く、クロちゃんとフリスビーで遊んでくれるほどなのです。
僕たちは全然違う。犬種だって、家柄だって……。
シロちゃんは、家でシロちゃんの帰りを待っている、年取ったご主人様のことを、切なく思い返しました。

シロちゃんのご主人様は、定年後、奥様が亡くなり、今ではシロちゃんと二人暮し。お子さんたちも、みんな独立しています。最近、ご主人様は体の具合が悪く、臥せってばかり。シロちゃんもほとんど散歩をさせてもらっていませんでした。
今日も、コンコンと咳き込むご主人様の背中をさすりながら、
「やっぱり、僕は出かけないで、家にいます」
シロちゃんは言いました。
ご主人様は、シロちゃんの手の甲を軽く叩くと、
「心配しないでもいいよ。軽い風邪だ。友達付き合いは大事だよ」
と、懐から札入れを取り出して、1000円札を2枚抜くと、半紙にくるんでシロちゃんにくれました。
半紙からは、お年寄りの匂いがしました。
シロちゃんは、それだけで、余計に心細くなってしまいました。

――もし、ご主人様に万一のことがあったら、僕はどうなっちゃうんだろう。

うつむいてビールを一口飲んだシロちゃんに、ブルドックのコーデリアちゃんがフライドチキンを取り分けてくれました。

――そうだ、コーデリアちゃんのご主人様って、どんな人だっけ?
「コーデリアちゃんのご主人様って、若いの?」
「あたしには、ご主人様はいないわよ。あたしが、ご主人様なの」
「へぇ。保健所とか行かないで済むの?」
「バカにしないでよ。あたしは自立した犬なのよ」
「自立ってどうしたらできるの」
「プライドが大事ね」
コーデリアちゃんは、厳かな声で言いました。
プライドってなんだろう。フライドチキンみたいなものかな。
シロちゃんは、コーデリアちゃんが取り分けてくれたフライドチキンに食いつきながら、ぼんやり思いました。


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