「すいません。ヘンな話しちゃって。忘れてください」

小さく笑うチョコちゃんに、 シロちゃんは、ゆっくりと切り出しました。

「あのねぇ、うまく言えないんだけど…。つらくて悲しいときはさ、嘘でもいいから、ボクはとっても幸せなんだーー! って口に出して言ってみるんだよ」

「嘘でもいいんですか?」

「そう。嘘でもいいの。ボクはとっても幸せなんだ、幸せなんだぞって、歯を食いしばって、そういう言うの。でもね、100回言えば、ほんとにそうなるんだよ」

「本当ですか?」

「うん。本当。もし、100回言っても、つらくて悲しいままなら、1000回言うんだよ」

「1000回」

「そう、1000回。でもね、1000回も言わなくても、そのうち、たいていはそんなふうに思えてきちゃうから、不思議だよね。
ボクもね、つらくて悲しいこと、あるよ。だから、君の気持ちわかる。
奥様が亡くなって、ご主人様も病気がちで、この先、ボクはどうなるのかな、って。もしかして保健所に行くことになったりするのかな、って。不安で押しつぶされそうなときは、川原に行って、ボクは幸せだー!って大声で叫ぶの。そしたら、ほんとに、そういう気分になるんだ。それにさ、君は、正真正銘、もう幸せになったじゃないか。ちゃんとご飯ももらえて、あったかい寝床もあって、かっこいい名前もつけてもらって、それに兄弟までいるんだろ? きっと、君が残したご飯、クロちゃんが食べちゃったんだろ? 『お前、これ食べないの? もらってもいい?』とか言っちゃってさ」

「そうそう。よくわかりますね」

チョコちゃんが初めて声をあげて笑いました。

「この町には、ドッグカフェとか、そういうお店ないけどさ。でも、なかなかいいところだよ。最近では、隣町にドッグランもできたんだぜ。ボクは行ったことないんだけどさ。これから少しずつ、友達だってできるよ。実際のトコ、ボクはもう、君の友達だよ」

シロちゃんがたいそう照れながら早口で言うと、チョコちゃんは、しばらく黙ったあと、深々と頭を下げました。茶色い毛の中の黒い瞳が、濡れて光って見えました。



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