入り口に立っていたのは、若い、茶色のラブラドール・レトリーバーでした。
――あっ……!
二人は声にならない声をあげました。
「すいません……、兄…クロ いますか?」
茶色いレトリーバーが言いました。
「あっ、あっ、ここに。けっこう飲んでるよ」
「すいません……。帰りが遅いので、迎えにきました」
チョコちゃんがぺこりと頭を下げました。
「クロちゃん、クロちゃん。迎えに来たよ。一緒に帰ろう。
ご主人様も待っているよ」
それから、お勘定お願いします、とカウンターに向かって言うと、
二人には、「ここは、兄が……。いつも兄がお世話になってます」と、自分のポシェットから、財布を取り出して、ささっと支払いを済ませてしまいました。
場慣れしている、とでもいうのでしょうか。
それはもう、洗練されているのです。
きっと、オシャレなドッグカフェに出入りしてきた犬なのでしょう。
ぐでんぐでんになったクロちゃんを、チョコちゃんが背負いました。
「クロちゃんてば、こんなになるまで飲んじゃって。
明日、二日酔いで、頭痛くなっちゃうよ」
そう諭すチョコちゃん。クロちゃんは、うるせぇと言いながらも、
体はしっかりチョコちゃんに寄りかかっています。
クロちゃんとチョコちゃんがバタバタと出て行ったあと、
残された二人は、ほぅっとため息をつきました。
「……帰ろうか」
ゴロウちゃんが言いました。
「……そうだね」
シロちゃんが答えました。
お店の人が、残ったおつまみを、折詰に入れて持たせてくれました。
半月の夜でした。
――兄弟かぁ。兄弟のことなんて、考えたこともなかったなぁ。
イヤなこともあるのかもしれないけど。でも、ちょっとうらやましいな。
ゲソ唐揚の入った折詰をぶらぶら下げながら、
シロちゃんは思うのでした。
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