「もうね。飲まないとやってらんないよね。あ、すいませーん。神の河もひとつお願いします。ロックで。あと、この刺身三種盛り合わせも〜」

クロちゃんが注文しました。

――ご主人様からもらった2000円じゃ足らないかもしれない。どうしよう。

シロちゃんは、心配になってきました。

「ゴロウちゃん、いくら持ってる?」

「えっとね、そんなにないよ」

ごそごそと財布の中をのぞいたゴロウちゃんは、

「んーっと、1000円札が1枚と、あと、500円玉が2枚と、あと、100円玉がちょっと」

「ぼく、2000円しかない。足りるかな? クロちゃん、いくら持ってきているんだろう?」

「自分から誘ったくらいだから、けっこうあるんじゃない?」

ゴロウちゃんは、そう言いながらも少し不安そうです。

――何しろ、クロちゃんだからなぁ。

「みんなっ! 飲んでる? もうね、こういう日は、ぱーっといかないとね。しみったれた飲み方してちゃダメよ。チョコみたいになっちゃう。
すいませーん! あと、ゲソ唐揚もお願いしますぅーー!!」

ハラハラする二人をよそに、クロちゃんの勢いはとどまるところを知りません。
時刻はそろそろ9時半になろうとしています。
シロちゃんは、ご主人様のことが気がかりで、落ち着かなくなってきました。

――ご主人様が寝る時間だ。もし、ボクのことを待って起きていてくださったら、申し訳ないな。

でも、今日のクロちゃんに、そろそろ帰ろう、とは言い出しにくいのです。ゴロウちゃんも同じ気持ちのようで、困った顔をしています。
そのうちに、クロちゃんは、揚げたてアツアツのゲソ唐揚には手もつけず、テーブルに突っ伏したまま、顔を上げなくなってしまいました。

「クロちゃん、クロちゃん。そろそろ帰ったほうがよくないかな?」

かすかに、クロちゃんのいびきが聞こえてきました。

――どうしよう。

そのときです。居酒屋むらさきの扉が、がらりと開きました。


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