「まったく、晴天のへきえきだよ!」

クロちゃんが、このセリフを言うのは、今日でもう9回目でした。
ゴロウちゃんは、(それを言うなら、晴天のヘキレキだけどな)、と思いましたが、黙っていました。
場所は居酒屋むらさき。
でも、今日は、いつもの会合ではありません。
一緒にいるのは、ゴロウちゃんと、シロちゃん。
二人は、「ちょっとサ、やけ酒つきあってよ」と呼び出されたのでした。

「ご主人様がさ、クロにも兄弟がいたほうが寂しくないから言ってさぁ。勝手に、茶色いレトリーバーを連れてきちゃったんだよ。こいつがまだちっちゃくてさあ、話し相手にもなんないんだ」

まあまあ、とゴロウちゃんとシロちゃんがとりなしますが、クロちゃんの怒りは収まりません。

「どうして、犬同士すぐに仲良くなれるだなんて、思うんだろうなぁ。ご主人様は、『ほら、クロの兄弟だよ』っていうんだけど、10代さかのぼったところで、赤の他人に決まってるんだよ。それなのに、『兄弟』って言われるとさ、なんかよけいにむかつくっていうの? わかる? この気持ち」

二人は、うんうんとうなずいて見せました。

「ご主人様は、遊び相手がいたら寂しくないだろ、っていうんだけどさ。でも、ぼくは寂しくなんか、ないんだよ、最初っから! だって、友達がいーっぱいいるんだから! ほらね、こーんなに!」

クロちゃんは、二人を示してそう言いました。
こーんなに!というほどにはいませんでしたが、
ゴロウちゃんと、シロちゃんは、またしても、うんうんとうなずいて見せました。

「ボクはさ、今のままで十分満足していたのに、勝手に、ずかずか、茶色いレトリーバーがやってきちゃってさ、奥さんもお嬢さんも、かわいいかわいいって、大騒ぎなんだぜ。やってらんないよ。まさに、晴天のへきえきだよ!!」

ゴロウちゃんと、シロちゃんは、うんうんと深くうなずいて見せました。

「おまけにさ、そいつ、酒が飲めないんだよ」

「あ、そうなんだ?」

「そうなの。サイアク。お前サ、酒飲める?って聞いたら、一杯ぐらいなら、っていうからサ、最初の夜、一緒に飲んだんだけど、ほんとのほんとに一杯でもうぐにゃぐにゃになっちまってんの。そういうのはね、『ボクお酒はぜんぜんダメなんで…』って言うんだよ、って、きつく言ってやったんだ」

まあまあ、みんながみんな、クロちゃんみたいに強いわけじゃないからさ。
ゴロウちゃんが、またしてもとりなします。

「そんでさ、やつ、甘いもんと若い女の人が好きなんだぜ、男のくせに。だもんだから、お嬢さんなんか、よけいに、かわいいかわいいって言ってさあ。チョコって名前も、お嬢さんがつけたんだ。ボクがクロで、やつがチョコって、なんか差別じゃない? やつだけ、かっこいい名前つけてもらってさ」

ゴロウちゃんとシロちゃんは、どっちもどっちな名前だと思いましたが、黙って、うんうんとうなずいて見せました。

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