翌日、そのTシャツを着て、インディちゃんは散歩に行きました。
ご主人様の後ろに隠れるように、びくびく歩くインディちゃん。
すると、向こうに、散歩中のゴロウちゃんと、おつかい中のクロちゃんがいます。
インディちゃんが一番会いたくない二人でした。

どうしよう、このまま通りすぎてしまおうかとインディちゃんは葛藤します。
でも、それは彼のプライドが許しませんでした。
「やあ、こんにちは」
雄雄しくも自分から挨拶したその声は、少しこわばっていたかもしれません。
でも、二人は、インディちゃんに気がつかずに、夢中で話をしています。
「やあ! こんにちは」
インディちゃんは、声を張り上げて、もう一度挨拶しました。
「あ、あぁ、なんだ、インディちゃんか…」
ゴロウちゃんが言いました。

――なんだよ、その言い方…! 

インディちゃんは、内心、むっとしましたが、動揺を気取られてはいけないと思い、
そしらぬ風を装いました。
「どうしたんだい、ずいぶん熱心に話しこんでいるじゃないか」
すると、クロちゃんが唾を飛ばしながら
「ねぇねぇ、隣町にね、ドックランができたんだよ。マロンちゃんがゴールデンウィークに行ったんだって。すごーく広くて、きれいだったって。インディちゃんも、もう行った?」
屈託なく聞くではありませんか。
そのとき、インディちゃんの頭の中でオレンジ色の光が走りました。
――みんな、僕がドックホテルにいたなんて、思ってもいないんだ。
黙ってやり過ごすつもりのインディちゃんでしたが、なぜか、そのとき、口走ってしまったのです。
「もちろん行っていないよ。だって、僕、長期休暇はいつも国外だから」、と。
そして、
「これも、そのときのサ」と、着ていたTシャツを見せました。


でも、二人は、Tシャツにチラと視線を走らせただけで、
「すごーく広くて、芝生も植わっているんだって。
で、イヌ用のアイスとか、焼きたてパンとかもあるんだって」
「いいなぁ、僕ンちの休みって水曜日なんだよね。
ドックランが水曜日も開いているといいんだけど。
クロちゃん、ドックランの定休日って知らない?」
などと話し続けています。
会話の糸口をなくしたインディちゃんは、仕方なく、
ドックランに興味がありそうな振りをしてみせたものの
二人の話には加われません。
そのうち、ご主人様が綱を強く引くので、
あきらめて帰ることにしました。
立ち去り際、「またね」と声を掛けても
二人は気が付かないままでした。

――クロちゃんもゴロウちゃんも大っ嫌いだ!

夜になっても、インディちゃんのムカムカは収まりませんでした。
でも、その一方で、少し安心もしたし、そして、本当のことを言うと
少し寂しくもなりました。

――僕のこと、気にしている人って、そんなにいないのかもしれないなぁ。

同じ頃、クロちゃんは、シロちゃんをドックランに連れていってくれる人はいるのかなぁ、と考えていました。

――ご主人様に、シロちゃんも連れていってください、ってお願いしてみようかなぁ。

それぞれの思いが揺れる、初夏の夜でした。

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