夕方近く、クロちゃんは、いそいそと居酒屋むらさきにやってきました。
今日は、月に一度の会合の日。1丁目の犬たちがあつまって、親睦を図るのです。
クロちゃんは、今日のこの日を待ちわびていました。
「みんなで飲めると思うと、もうワクワクしちゃうんだよねぇ」

クロちゃんが着いたとき、お店には、まだだれも来ていませんでした。
「どうしようかな。隅っこに座っちゃうと、話に入れないかもしれないし。ホントは真ん中がいいんだよね。でも、真ん中ってのも、ちょっとずうずうしいかな」
クロちゃんはちょっと悩み、真ん中から、ひとつ出入り口寄りに座りました。
「ここなら、注文をとったりするときに、便利だしね」

クロちゃんがお手ふきで、耳の中を丁寧に拭いていると、マルチーズのマロンちゃんがやってきました。マロンちゃんは、この会合は今日が初めてです。
「あっ、マロンちゃん! こっちこっち!!」
大きな声でクロちゃんが呼んだので、お店の人たちが、クロちゃんを見ました。

「何にする? とりあえず、生いっとく?」
クロちゃんは大張り切りです。
「えーと、あたしは、ウーロン茶でいい」
「あれっ? そうなの?」
「あんまり飲めないの。頭痛くなっちゃって」
「そっかぁ〜」

クロちゃんは、少しがっかりして、耳を拭いていたお手ふきをテーブルに置きました。
マロンちゃんはそれを見て、クロちゃんから少し離れた席に座りました。

「ここサ。けっこう、つきだしイケるんだよ。おいしいの」
小鉢の中には、イカの塩辛と菜の花のおひたしがはいっています。
「こういうの、辛いんでしょ。ウチじゃ、塩辛いもの、健康によくないからあんまり食べちゃだめって」
「たまにだから、きっと大丈夫だよ」

クロちゃんは、奥歯できりきりとイカを食べると、喉を鳴らして生ビールを飲みました。
(くぅぅ〜 たまらないねっ)

クロちゃんがしみじみと幸せを噛み締めていると、ビーグル犬のラブちゃんがやってきました。
「ラブちゃん! こっちこっち!!」
クロちゃんは、またしても大きな声で呼びました。
「ごめん、遅れちゃって」
「生いっとく?」
「そうだね、じゃあ、生ひとつ」
「つきだし、おいしいよ。とりあえず、フライドチキンいっとく? ポテトもあったほうがいいよね」
クロちゃんの顔は、嬉しさと酔いで、赤黒くなっています。

ラブちゃんに続いて、酒屋さんの雑種犬ゴロウと、ミニチュアダックスフンドのクッキー、ブルドックのコーデリアも入ってきました。
「みんなっ! こっちこっち!!」
クロちゃんの声がひときわ高く大きくなりました。



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