『朱色の研究』(有栖川有栖著 角川文庫)

☆☆☆☆☆
何と言うんでしょうかね、これは。
一言で言えば、趣味じゃないということなんでしょうか。
キャラクターがまず、イカン。今時、孤高のヒーローなんて流行らない。
そして、関西弁の独白が、イカン。関西弁がうまく生かされているのは、ほとんど読んだことがないぞ(武田百合子『犬が星見た』の銭高老人くらいだ)。
そして、中途半端な悲劇のヒロインがイカン。

こうイカンイカン攻撃をしていてもよろしくないかと思い、そのほかのみなさんの意見を読んでみようと、アマゾンの書評欄を覗いてみましたが……

一件もコメントがなかった!

久しぶりに本で外れを引いてしまいました。

『おすず』(杉本章子著 文春文庫)

★★★★☆
ソフィスケイティッドな江戸言葉が、粋でしびれるのです。いいなぁ……。
こういう文を読むと、俄然自分でも試してみたくなってしまうのが悪い癖です。仕事相手への返信メールに
「それはようござんした。また、言っておくんなさいまし」
と返事をしたらば、思いっきり引かれてしまったらしいです、無理もない。

さて、それはともかく。。。
内容は、短編の捕り物帖です。
ちょっとビターな幕開きがまたまたいいのです。


『天狗風』(宮部みゆき著 講談社文庫)

★★☆☆☆
なんというのでしょう。例えるなら、文庫版2時間ドラマ、という印象です。しかし、くやしいことに、これがぐいぐいと読まされてしまうんですよね。
正々堂々 すがすがしいほどに、エンターテインメントの王道を行く宮部みゆき。でも、読書ってそういうものですよね。
人生について深く思索するというより、読んで楽しい、というやつが私は好きです。

『やまない雨はない』(倉嶋 厚著 文春文庫)

★★★☆☆
朝日新聞の書評欄で紹介されていて、興味を持ちました。筆者は、元NHKのお天気ニュースキャスター。
妻を亡くした後、うつ病を患った1年間のことが、やさしい言葉で率直に綴られています。

内容そのものはもちろんですが、静かな語り口が印象的。


『ゆっくりさよならをとなえる』(川上弘美著 新潮社)

★★★★☆
これまでに発表した、さまざまなエッセイを1冊にまとめたもの。ずっと前に『旅』(JTB出版)で目にしたエッセイもあって、思いがけず再会を果たしました。

「春のおでん」というタイトルのそれは、貧乏な若い絵描きの友人に誘われ、春におでんを食べにいった、ということが、いつもの川上節であわあわと綴られています。その中に書かれている、「若い絵描きの大部分がそうであるように、人生を愉しく過ごすすべを生まれつき知っているように見える」という一文が、ずっと心に残っていたのでした。
以来、「わたしは、人生を愉しく過ごすすべを知っているかなぁ、知りたいなぁ」とことあるごとに思い出してきました。それがあれば、きっと、どうにかこうにか暮らしていけるように思ったのです。初出は、2000年5月。

『旅』も2004年1月号を最後に休刊になってしまった。残念。

『西の魔女が死んだ』(梨木香歩著 新潮文庫)

★★★☆☆
『裏庭』の作者による初期の中篇。おなじくN社のKさんに勧められて、読んでみました。
こちらはぐっと、わかりやすくて、読みやすい。
中学1年生のまいを主人公とした、いってみれば児童文学なのですが、「ああ、そうそう、わかるよ〜」という部分もけっこうあり.....。
今日び、中学生として生きることは、なかなか葛藤が多いだろうなぁ。

台所仕事の昔風のやり方などが面白い。
マネして、布巾を鍋で煮てみたりしました。

『俳優のノート』(山崎努著 集英社文庫)

★★★☆☆
これを、芸能人が片手間に記した本だと考えると大間違いで、硬質で骨太な文章が、延々と続きます。

たとえば、
「読みかじったり聞きかじったりした知識ではなく、自分の日常の中に劇のエキスはある。(略)日常を見据えること。和子さんの仕事にはそのリアリティがある」(p.378より抜粋)など。
本当に、そうだよねぇ......と共感。借り物の言葉では、底の浅さがすぐばれる。自分が感じ発した言葉しか、人を動かす力を持たないと、私なんかでも、いつも思うのです。
こうした示唆に富む文章がそこかしこに散りばめられていて、こちらも時間を置いて、あたらめて読み直したい本の一つです。

『裏庭』(梨木香歩著 新潮文庫)

★★★☆☆
児童文学ファンタジー大賞受賞の作。N社の編集Kさんに勧められて読み始めました。
表面的には、孤独な少女照美の、再生の旅の話なのですが、「手無し娘」「片子」などの昔話を元にした隠喩をいくつも含んだ多層的な構造で、一読しただけは、完全にストーリー把握しきれないようなところもあります。
時間を置いて、あらためて読み直してみたい作品。
また、こうした小説を読むと、日本の昔話についても、もっと知りたくなります。

『乱れからくり』(泡坂妻夫著 創元推理文庫)

★☆☆☆☆
読み終わるまでに、えらく時間がかかってしまいました。なんというか、ちょっと、びっくりな本格推理だったのです。だって、いきなり隕石が降って来て、主要な登場人物が死んでしまうのですから。
途中、挿入される昼メロもどきのむふふシーンにも唖然。読者である私を置いてきぼりにして、その男女だけがどこまでも突き進んでいく印象でありました。
からくり細工の講釈に対して、★1つ(ちょっとお勉強になったので)。

松田優作、篠ひろこなどで映画化されたそうですが、なるほど、そういう作風であります。でも、隕石のシーンはどうやって撮ったのだろう? CG?

『犬が星見た ロシア旅行』(武田百合子著 中公文庫)

★★★★★
武田夫妻と竹内好氏のロシア旅行記。ロシアとあるけれども、昭和44年、物資の乏しいソ連体制のころのことです。

『日日雑記』の著者による旅行記となれば、面白いに決まっていて、まさに期待通り。物怖じすることなくでたらめなロシア語をしゃべり倒し、そして、どうにか通じさせてしまうあたり、もう、ボリショイ ハラショーものです。
しかし、この本のスゴイところは、冷静な観察がいたるところに見受けられる点。そこが、単なるドタバタ旅行記と一線を画しているのでありましょう。ツアーに同行している面々の描写もいい。特に、銭高老人がすばらしい。

『ポプラの秋』(湯本香樹実著 新潮文庫)

★★★★☆
夫を失ったばかりで虚ろな母と、もうじき7歳の私。二人が夏の昼下がり、ポプラの木に招き寄せられるように、あるアパートに引っ越しするところから物語は始まり……。

ベースには、生きることと死ぬことにまつわる謎が横たわっているけれども、決して暗くはない。アパートに住む、ユニークな隣人たちとの交流についつい引き込まれて読んでしまいます。特に小学4年生のオサムくんの存在がいい。そして、最後には小さな希望と大きな慰めが。さわやかな読後感に、同じ著者の作品も読みたくなったのでした。ちなみに、映画化された「夏の庭」の著者でもあります。

『日日雑記』(武田百合子著 中公文庫)

★★★★★
文句なく面白い。すばらしい。行間から、天真爛漫ではつらつとした、そのうえに気風がよくて上品なオーラが、それこそ「お湯のように」わきあがってきます。
大岡昇平さんとのくだりは涙が出ます。大岡さんの『事件』が好きでした。テレビ化されたときの、若山富三郎とケーシー高峰もよかった。当時、私は小学生だったが、生きることの難しさや哀しさが伝わってきて、おそれおののきながら画面に見入っておりました。思い出します。

私のあと、ダンナもこの『日日雑記』を読んでおりましたが、「コレ、おもしろいね!」と申しておりました。ぜひに!

『GO』(金城一紀著 講談社文庫)

★★☆☆☆
とにかく親父がかっこいい。山崎努ははまり役だっただろうなぁ。あんなにかっこいい親父はいない。映画が見たい。山崎努が見たい!!
韓国ブームでもありますが、あまり知られていない在日と呼ばれる人たちの、暮らしぶりなどが窺い知れます。

『碇星』(吉村昭著 中公文庫)

★☆☆☆☆
幅広い年代の本を読もうと手にとってみましたが、うぬぅ、これは、どういうんでしょ。読んでいると、しょぼしょぼと鼠色の気分になってまいりました。世のお父さん方には悪いが、やっぱり趣味じゃない! あと30年くらいしたら、深い共感を持って読めるのだろうか? ひょっとしたら、そうなのかもしれない。

そういえば、「あと30年したら」というテーマはよく考える。あと30年したら、演歌を聞くようになるのだろうか? あと30年したら、同年代のおばさんたちと、バスで観光旅行に行ったりするんだろうか? 

……あと30年先のことなんて、わかんないよねぇ。1年先のことだって、わかんないのに。

『うつくしい子ども』(石田衣良著 文春文庫)

★★☆☆☆
神戸の酒鬼薔薇事件に材を取った小説。主人公は、殺人犯の兄。弟が罪を犯した理由をひとりで探っていこうとする物語。どちらかというと青春小説の趣が強く、ヤングアダルト小説が好きな私の好みに合いました。少年犯罪がエスカレートするなか、男の子を育てることには不安も多い。でも、男の子ならではの喜びも深い。親としては、健やかに育っていってほしいと、ただ願わずにはおられません。

『マークスの山』上・下 (高村薫著 講談社文庫)

★★★☆☆
映画化もされたので、ご存知の方も多いはず。推理小説であるので、ここでは筋に触れるのは避けておきます。
本筋以外では、碑文谷を「ひもんや」と読めた方(特に、東京以外で)はどれだけいるのだろうかなぁ、などと、些細な点ばかり気になってしまいました(目黒の碑文谷にはダイエーがあるので、よく行った。碑文谷の警察署はダイエーの隣である)。
それにしても、社会人になって、「ペコ」「十姉妹」「蘭丸」「又三郎」などなど、あだ名で呼び合うものなのか。で、合田のあだ名は何なのだろう、とこれまたどうでもいいことに気が散ってしまいました。

『眠れぬ森の美女たち』(香山リカ著 河出書房新社)

★☆☆☆☆
普段は心理学の本はめったに手にとることはないのだけど、図書館でめずらしく借りてみました。タダだし。あー、でも、やっぱりダメ。
筋もきちんとしているし、文章も上手なんだけど、でも、パッションが感じられない。著者自身のなかからあふれ出てくるものが感じられない。きれいに、スマートにまとめてみました、という印象。

でも、タダだったからいいかぁ。

『神様』(川上弘美著 中央公論社)

★★★★★
川上弘美さんのデビュー作を収めた、連作短編集。すでに川上ワールドがちゃんとできあがっておりました。すばらしい。読みきってしまうのが惜しいくらい、いとしい小さな物語たちです。伝承の世界や、架空の生き物に興味を覚える方は、ぜひご一読を。私は、本当に川上弘美さんのつくる世界が好きなのだと再確認。

『パーク・ライフ』(吉田修一著 文藝春秋)

☆☆☆☆☆
最初、『公園の生活』というくらいなので、住所不定の人々の話なのかと思った。新宿中央公園や地下通路にいるような。

でも、中身は、おしゃれな独身男性のよくわけのわからん話だった。私は、もっと、生きている実感が感じられる話がいいなぁ、ふわふわしたイメージの話じゃなくて。

芥川賞を取ったとあるけれど、さっぱりよさがわからない。おしなべて、受賞作品は、ぜんぜん琴線に触れない私。文学系ではないのですね、きっと。
日記にも書いたとおり、あっという間に読み終わり、あっという間に読んだことすら忘れてしまいそうだ。

『和菓子屋の息子』(小林信彦著 新潮文庫)

★★★☆☆
著者は9代続いた老舗和菓子屋の息子で、戦前の日本橋(下町)に住んでいました。本書では、その下町ネイティブによって、本当の下町の商家の姿が描かれています。

最近の東京は「下町ブーム」で、下町ノスタルジーが商品価値を持っています。著者は、その下町ノスタルジーを「気色悪い」と弾劾しています。マスコミによってつくられたイメージが過大に膨れ上がっているであろうことは、容易に想像できるわけですが、それを差し引いても、下町の持つ文化には、人をひきつけるものがある、と、私は思う。でも、いくら下町文化にあこがれを持ち、下町と呼ばれる地域に部屋を借りて住んでみたところで、下町人になるわけではないのだなぁ、と思いました。なにしろ、言葉が違うのだから。誤解を恐れずに言うならば、久保田利伸が、黒人になれないのといっしょ。

私自身は、というと、戦後高度成長期に、東京の郊外に生まれ、その後、京都に移り住み、再び東京へ。さて、私は生まれた東京を出身地と言うべきか、それとも人格形成がなされた京都を出身地と言うべきか、いつも悩みます。
本音を言えば、私は京都に愛着を持っているし、京都を育った街といいたい。けれど、京都弁がしゃべれないというジレンマ。その1点だけで、決して、京都人にはなれないのだ、と苦く感じていました。言葉は、アイデンティティと密接に絡み合っているものだと、思うのです。

さらに言うならば、本籍地は千葉であったし、祖父母・両親のルーツは沖縄でもある。祖父母は、私の理解できない言葉をしゃべることもありました。
この本を読み、自分のバックグランドを持たないわびしさを、また再確認してしまったりしました。

昭和という時代の重みや厚みを含め、いろいろと考えさせられました。ちなみに、私にとって、象徴的な昭和の終わりは、美空ひばりの死です。

『センセイの鞄』(川上弘美著 文藝春秋)

★★★★★
川上弘美さんはすばらしい。難しい言葉は一切使わない。状況説明も限りなく少ない。単純な言葉だけで、雄弁に、川上ワールドを作り上げています。その世界が、深く、優しく、哀しく、暖かい。テクニックが優れている、とか、感性が鋭いとか、とかいうよりも、人格そのものが魅力的なのだろうと、思わせられます。

これは、大町月子さんという37歳の独身OLと、高校時代のセンセイとの、20年ぶりの心の交流がテーマ。日常の過剰さに疲れたときにおすすめ。

そして、川上さんの小説を読むと、いつも激しく日本酒が飲みたくなるのは、私だけではないはず。

『駆ける少年』(鷺沢 萌著 文春文庫)

★★★☆☆
渋谷に行ったとき、たまたま時間つぶしに入った古本屋で買ったもの。中短編が3本入っています。
実は、鷺沢萌さんの小説をちゃんと読んだのは、初めてなのだけれど(これまではエッセイだけ)、なるほど、人気の理由がわかる気がします。

めざす先さえもわからないのに、追い立てられるように駆け続ける。やめることはできない。だって、やめれば自分自身を保つことができなくなるのだから。怖くても寂しくても、進み続けるしかない――そういうことは、確かにある。私もあったに違いない、と思います。

最近は、すっかりのんきなおばさんになってしまいました。めんどくさいことはやらない。疲れることもやらない。お金がかかることもやらない。これでいいのか悪いのかわからないけれど、とりあえず平和。でも、そんなふうに必死で走る少年をまぶしい気持ちで見てしまうのです。

あとがきによると、表題は、鷺沢さんのお父さんを描こうとした1編とのこと。

『つきのふね』(森 絵都著 講談社)

★★☆☆☆
以前、森絵都さんの『カラフル』を読んだことがあって、かなり好印象だったので、この本も手にとってみましたが、うーん、正直言って、『カラフル』のほうがよかった。時系列的には、『カラフル』のほうが新しいので、上手になったということなのかな。

『つきのふね』がいまいちだと感じるのは、いくらフィクションとはいえ、あまりにもリアリティが欠如している点。
少なくとも、ヤクまでちらつかせないほうがよかった。安っぽくなってしまう。ヤクをやっている中学生が、そんな簡単に足を洗えるわけがない。最後の手紙も『アルジャーノンに花束を』もどきで、いただけません。

とはいいつつも、後半のへび店長のキャラクターはとてもすてきだと思う。ドラマ化するなら、林隆三といった感じか。

『母のいる場所 シルバーヴィラ向山物語』(久田恵著 文藝春秋)

★★★★☆
久田恵さんの著書のファンで、ほとんど読んでいます。『ニッポン貧困最前線 ケースワーカーを呼ばれる人々』もすごかったし、『ワーキングマザーとこどもたち』は、涙なしには読めない。だから、この本はまだ文庫化されていないので、少々高いかな〜と悩みましたが、買ってみました。そして、やはり「買って正解」だったな、と、久田さんへの尊敬の念を新たにしました。
 
内容は、久田さんのお母様が入居された、東京都練馬区の某老人ホームでのエピソードが主。実は、老人介護というテーマは、私にはまったくなじみのないものです。両親を早く亡くしていることもあり、老人と呼ばれる世代の人と接する機会はたいへん少ない。私にとって「老い」はイメージでしかなく、そして、それは恐怖以外の何者でもない、というのが事実。
でも、ここに登場する、ユニークな入居者たちを見ていると、年をとることへの恐れが少し減りました。そして、なまなかではない生のなかにも、希望や喜びが、必ずあるのだ、と思えるのです。

読後感がすがすがしいのも、久田さんの著書の特徴ですね。老人介護のただ中にある方も、私のように、まったくなじみのないという方も、きっと何らかの収穫が得られるはず。

『理由』(宮部みゆき著 朝日文庫)
★★★☆☆
文庫化されたのを機に購入。
分厚い! が第一印象でしたが、さすが稀代のストーリーテラー
飽きさせずに、これだけの長さを読ませるテクニックはすごい。
しかし、読後には、なんというか、「手をひろげすぎた感」が多少残ります。構想が壮大な割に、犯人像があまりにステレオタイプ。
『火車』を読んだときのような衝撃は、今回はありませんでした。

それ以外では、単純に、高層マンションは金額も高いのう、といったところでしょうか。住宅購入をもくろむわが家の予算の、ゆうに2〜3倍以上する。トラックの運転手さんって儲かるんだなぁ、と、佐川急便のトラックを見るたびに思うようになりました。